5Gネットワークアーキテクチャを徹底整理:コア構造・機能・4Gとの違い
5Gネットワークアーキテクチャは、従来世代の通信方式とは異なる設計思想を持ち、通信性能の向上だけでなく、柔軟なネットワーク構築と高度なサービス管理を目的として体系化されています。5Gは新しい無線方式の採用に加えて、ネットワーク内部の構造が根本的に刷新されており、多層構造の最適化によって幅広い用途に適応できるよう設計されています。
また、5Gではソフトウェア中心の構成が採用され、クラウド環境に適合する形で運用されます。これにより、ネットワークの拡張や変更が容易となり、多数のデバイスやアプリケーション要求に合わせて柔軟な制御が可能になります。この柔軟性は産業用途を含むさまざまな領域で活用され、5Gの特徴を支える基盤として機能します。
本記事では、5Gネットワークアーキテクチャの概念、5Gコアの主要機能、サービスベースドアーキテクチャの構造、ネットワーク機能間の連携、そして4Gとの体系的な違いについて整理します。本記事が、5Gネットワーク技術の理解を深めるための基礎資料として役立つことを目的とします。
1. 5Gネットワークアーキテクチャとは
5Gネットワークアーキテクチャとは、5Gシステム全体の構造を示す概念であり、無線アクセス網(RAN)、5Gコア(5GC)、および各ネットワーク機能(NF)が相互連携する仕組みを体系化したものです。5Gでは、従来型の固定的な構造とは異なり、クラウドネイティブ技術を前提として柔軟に構築される点が特徴になります。
さらに、5Gはサービスベースドアーキテクチャ(SBA)を採用しており、ネットワーク機能がサービス単位で提供される構造が導入されています。これにより、必要な機能のみを選択して組み合わせることが可能となり、構成変更の速度や管理効率が向上します。
また、5Gのネットワークアーキテクチャは高い拡張性を持ち、通信性能の要求に応じてネットワーク容量や処理能力を調整できるため、大規模なデバイス環境や高負荷環境にも適応できる構造になっています。
2. 5Gコア(5GC)の構造
5Gコアはネットワーク全体の中核として機能し、ユーザー情報管理、認証、接続の確立、ポリシー制御、データ処理など多くの役割を担います。5GCはソフトウェアベースで構築され、クラウド上で動作するよう設計されています。
また、5GCはネットワーク機能(NF)がモジュール化され、役割が明確に分離されています。これにより、個々の機能を独立して拡張・更新でき、サービス提供の柔軟性が高まります。この構造は、5Gの広範な応用に対応するための基盤として重要な要素となっています。
さらに、5GCは3GPPによって標準化されており、異なる事業者や設備間でも共通の運用が可能なよう規定されています。標準化により、ネットワークの相互接続性が確保され、統一された管理体系が実現されています。
3. 5Gネットワークの主要機能(NF)
5Gコアネットワークは、従来よりも高度に柔軟でスケーラブルな通信を実現するため、多様なネットワーク機能(NF)が協調して動作します。各NFはサービスベースドインターフェースを介して情報を交換し、通信の効率化やセキュリティ、ユーザー体験の最適化を支えています。
3.1 NRF(Network Repository Function)
NRFはネットワーク内の全NFの登録情報を集中管理し、NF同士の探索や接続を仲介する重要な役割を担います。新しいNFが追加される際、NRFに登録されることで既存のNFは自動的にアクセスでき、接続やサービス呼び出しが即座に可能になります。
この機能により、ネットワークの動的拡張が容易になり、サービス導入やトラフィック増加への対応もスムーズです。例えば、新規IoTサービスを追加した場合でも、NRFを介して必要なNFが即座に認識され、設定作業の負荷を大幅に削減できます。
NRFは単なるデータベースではなく、ネットワーク全体を自律的に機能させる中枢として機能し、5Gネットワークの柔軟性と効率性を支える基盤です。
3.2 PCF(Policy Control Function)
PCFはユーザーやサービスごとの通信ポリシーを柔軟に管理し、帯域制御や遅延保証、課金ルールの適用などをリアルタイムで調整します。これにより、多種多様なサービスが同時に存在しても、それぞれ最適な通信環境を提供できます。
例えば、AR/VRによる高帯域通信と多数のIoT端末の小規模通信が混在する場合でも、PCFは自動的に優先度や帯域を調整し、サービス品質を維持します。こうした動的制御により、ユーザー体験を損なうことなく効率的にネットワーク資源を活用できます。
PCFは、複雑なサービス環境における通信の安定性と柔軟性を確保する制御の司令塔であり、5Gネットワークの運用品質を支える核心機能です。
3.3 BSF(Binding Support Function)
BSFは複数PCFが存在する環境で、それぞれのポリシーを統合・整理する役割を担います。ポリシー間の競合や不整合を防ぐことで、通信制御が安定し、ネットワーク全体の効率を維持できます。
また、BSFは特定のサービス要求に応じて最適なPCFを割り当てる調整役も果たし、スライス間やサービス間の制御が混乱することを防ぎます。これにより、ネットワークの多様化が進む中でも安定した運用が可能です。
BSFは、ポリシーの一貫性と通信品質を保つための調整者として、5Gネットワークの信頼性向上に寄与する重要な機能です。
3.4 SCP(Service Communication Proxy)
SCPはNF間の通信を最適化し、データフローの負荷分散や経路管理を行う中継機能です。直接通信の場合に発生しやすい遅延や通信衝突を回避し、効率的な情報伝達を実現します。
さらに、メッセージ整合性やセキュリティの管理も担うため、内部通信の信頼性を高めます。リアルタイム性が重要なアプリケーションでも、SCPを介することで遅延やパケット損失を抑えることができます。
このように、SCPはネットワーク内の通信を円滑化する“潤滑油”的存在として、5Gサービスの安定運用に欠かせない役割を果たします。
3.5 NSSF(Network Slice Selection Function)
NSSFは、ユーザーやサービスごとの要求に応じて最適なネットワークスライスを選択し、割り当てます。スライスごとに異なる帯域幅や遅延特性を提供できるため、IoTやAR/VR、低遅延通信などを同時に運用することが可能です。
動的なスライス割り当てにより、トラフィック増加や利用変動に応じてネットワーク資源を柔軟に調整できます。これにより、サービス品質を維持しながら効率的な資源活用が可能です。
NSSFは、5Gネットワークの多様性と柔軟性を実現する根幹機能であり、異なる用途を同一ネットワーク上で安定運用するために不可欠です。
3.6 UDM/UDR(Unified Data Management/User Data Repository)
UDMとUDRは、ユーザー情報、認証データ、アクセス権限を統合的に管理し、サービス提供の安全性と柔軟性を支えます。ユーザーごとの設定や利用履歴を正確に把握できるため、ネットワーク制御や課金にも反映されます。
また、認証情報の更新やログ管理も行うことで、監査対応や障害対応の効率化にも寄与します。特に大規模ネットワークでは、統一管理によって運用負荷を大幅に軽減できます。
UDM/UDRは、ユーザー中心の運用基盤として、セキュリティ確保と効率的なサービス提供を両立させる重要な機能です。
3.7 AUSF(Authentication Server Function)
AUSFは、接続要求を行うユーザーや端末の認証を担当し、不正アクセスやなりすましからネットワークを保護します。SIMやデバイス証明書を用いた高度な認証処理により、安全性の高い接続環境を提供します。
認証結果は他のNFに伝達され、アクセス権やサービス制御に反映されます。これにより、サービス利用者ごとに適切な制御が自動で適用される仕組みが構築されます。
AUSFは、5Gネットワークの信頼性を支える“守護者”として、安全で安定した通信サービスを提供する役割を果たしています。
3.8 NWDAF(Network Data Analytics Function)
NWDAFは、ネットワーク内のデータを収集・分析し、運用効率やリソース配分改善に活用されます。トラフィック予測、QoS評価、障害検知など、多様な分析結果を提供することで、データ駆動型の運用を可能にします。
分析結果はPCFやNSSFに反映され、ポリシー適用やスライス割り当てに役立てられます。これにより、ネットワークは動的に自己最適化され、利用状況に応じて柔軟に制御されます。
NWDAFは、5Gネットワークの運用を高度化する分析基盤として、効率性と信頼性の両立を支える中核機能です。
4. 5G アーキテクチャ
5G アーキテクチャは、ネットワーク機能(NF)同士がどのように連携し、どのように通信サービスを実現するのかを明確にするための枠組みとして設計されています。5G では、サービスベース方式(Service-Based Architecture: SBA) を中心に構成されており、必要な機能を柔軟に組み合わせられる点が大きな特徴です。この方式を採用することで、ネットワーク全体の拡張性が高まり、新しいサービスやアプリケーションにも迅速に対応できるようになります。
SBA とリファレンスポイント方式は共存していますが、5G の本質を理解するうえでは SBA が重要な役割を果たします。以下では、その中核となる NF サービスと管理サービス群などについて順を追って説明していきます。
4.1 ネットワーク機能サービス(NF Service)の概念
5G のサービス構造を理解するためには、まず ネットワーク機能サービス(NF Service) の仕組みを把握する必要があります。各 NF は特定の機能を内部に保持していますが、その機能を他の NF に対してサービスとして提供することで、ネットワーク全体が協調して動作します。このとき、NF は認可された相手にのみサービスを公開し、インターフェースを介して通信を行います。
NF サービスは、以下のように機能します:
NF サービス提供者(NF Service Producer)
→ 自身が持つ機能をサービスとして提示する
NF サービス利用者(NF Service Consumer)
→ 必要なサービスにアクセスし、機能を利用する
サービスベースインターフェース(SBI)
→ NF 間が通信を行うための仕組みとして機能する
この仕組みによって、NF 同士が個別に依存しすぎることなく、必要な機能だけを柔軟にやり取りできるようになります。また、ネットワークの機能更新や拡張の際にも個々の NF を置き換えたり追加したりしやすくなるため、運用効率も向上します。
4.2 NF によるサービス公開の仕組み
さらに、5G の NF は一つのサービスだけでなく、必要に応じて複数のサービスを提供することができます。これにより、1 つの NF がより多くの役割を果たすことが可能になり、ネットワーク全体の機能が細分化・効率化されます。サービスが複数存在することで、異なる NF が同じ提供者にアクセスし、用途に応じた機能を利用できます。
NF が公開するサービスの特徴として、以下のような点が挙げられます:
- 必要なサービスのみを選択的に公開する
- 複数の NF が同一サービスを利用可能
- サービス単位で管理・拡張が容易
このような構造により、5G ネットワークは動的に機能を拡張でき、特定の NF に負荷が集中しないよう最適化することも可能になります。結果として、全体の信頼性や運用性が向上します。
4.3 管理サービス群における手続き構成
5G アーキテクチャには、多数の管理サービス群が存在しており、それぞれのサービス群はネットワーク全体の安定運用を支えるために重要な手続きを提供しています。これらの手続きは、NF の登録、サービス発見、ポリシー管理、セッション管理など多岐にわたり、それぞれが連携し合いながらネットワークを維持します。
代表的な管理サービスには次のようなものがあります:
NNRF Management
→ NF の登録やサービスの探索に関する機能を提供
NBSF Management
→ セッションやポリシー関連の手続きを処理
これらの管理サービスは、複数のプロシージャ(procedure)から構成されており、必要に応じて NF がこれらの手続きを呼び出して動作していきます。
5G のネットワークが常に適切に動作し続けるためには、このような管理サービス群が非常に重要であり、それぞれが相互にサポートし合うことで、ネットワーク全体の整合性と性能が保たれています。
5. 4Gと5Gネットワークアーキテクチャの違い
以下は、4Gと5Gのネットワークアーキテクチャの違いを整理した表です。まず、世代や速度、ネットワーク構造などの観点から両者を比較して、技術進化のポイントを理解していきます。
項目 | 4Gネットワーク | 5Gネットワーク |
| 世代 | 第4世代 | 第5世代 |
| 最大下り速度 | 約1Gbps | 約2.5Gbps |
| 最大上り速度 | 約500Mbps | 約1.25Gbps |
| RAN構造 | 従来型RAN、インフラが複雑で効率が限定的 | C-RANを採用し柔軟性と性能を向上 |
| 主な変調方式 | QAM、QPSK | AP-SK方式を採用 |
| コア構造 | 固定的構造 | SBAを採用しクラウドネイティブ |
この比較から、5Gは単に速度向上だけでなく、RANの柔軟性向上やクラウドネイティブなコア構造の採用など、ネットワーク全体の効率化・拡張性を重視して設計されていることが分かります。
おわりに
5Gネットワークアーキテクチャは、性能向上に加えてネットワーク内部の構造が大幅に設計変更され、柔軟で高効率な運用を可能にする体系として整備されています。SBAの導入、クラウドベースのコア構造、モジュール化されたNFなど、多くの技術要素が統合されることで、用途ごとに最適なネットワークが構築しやすくなっています。
また、4Gと比較するとアーキテクチャの自由度が高まり、ネットワークスライシングなどの新しい概念を通じて、産業用途や大規模デバイス環境に対応しやすい仕組みが確立されています。これにより、通信方式としての互換性を保ちながら、多面的なサービスやアプリケーションの展開が可能になります。
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